
初めてこの街に足を踏み入れた10歳の記憶
私が上野に芸術の用事で初めて訪れたのは、10歳のとき。
全日本学生美術展で推奨を頂き、美術館での展示と表彰式に出席する為でした。あれから40年(笑)。あの頃、まさか駅前のホールで音楽を、しかもオペラを歌う日が来るとは1ミリも想像していませんでした。
家族も、私も、歳を重ねて
40年という月日は、私だけでなく家族にも変化をもたらしました。親は80歳近く、いつ何があってもおかしくない年齢に。楽屋での会話も「親の介護が…」なんて話題が飛び交う一方で、50日前後に子が生まれたという仲間もいたり。
そういえば、我が子が生まれた頃は、東京芸術劇場でイタリアの名歌手であるパロンビの裏で合唱を歌っていました。同じ楽屋の10人のテノール中、3人が参加していました。
オペラの現場は、人生の節目
オペラには大学時代、あまり興味がなかった私。でも、歌うこと自体が好きで、オペラだろうが何だろうが「歌えればいいや!」というのが私のスタンス。それでも、オペラの現場に立つと、ソロも合唱もそれぞれの魅力に気づきます。発声に向き合う時間は、自分自身と向き合う時間でもあります。
振り返れば、人生の節目節目でオペラや芸術に携わってきた気がします。狙ったわけじゃないのに、なぜかそうなる。きっと、神様の😉ですね
今回の公演:深作健太さんの挑戦的な演出
今回のオペラ公演、演出家の深作健太さんが手がける舞台は、楽譜のト書きを忠実に守りつつ、独自の視点を織り交ぜた意欲作です。例えば、1幕の舞台設定では、海や岸壁が描かれるはずが、今回の演出では「海はどこに?」「舞台とは何を指す?」と、観客の想像力を刺激する仕掛けが。
2幕では、暖炉の代わりに何が登場するのか。3幕の「明るい夜」や「不気味なコントラスト」はどう表現されるのか。オランダ船員の登場シーンでは、青い炎や暴風がどう描かれるのか…。ネタバレにならない程度に言うと、楽譜通りなのに「何か違う」ポイントが随所にちりばめられています。
ワーグナーの新しい可能性
深作さんの演出は、単なる奇抜さや流行りの視覚効果に頼らず、ワーグナーの原典に敬意を払いつつ新たな解釈を提示しています。これは、バイロイトでワーグナーを愛する筋金入りのワグネリアンに向けた挑戦とも言えるでしょう。
二期会のメーリスにあった「歌手でもある皆さまにこそ見届けてほしい」という言葉。この舞台は、良い本番も悪い本番も見てきた私たち歌手だからこそ、深く感じられるものがあるのかもしれません。
上野の神様と一緒に
上野という場所には、芸事を愛する神様がいる気がします。私はその神様に「ちょっとだけ好かれてるかな?」なんて思いながら(笑)、本番までの待ち時間を乗り切り、がんばって歌います!
この舞台、どんな人がどんな風に見るのか、楽しみでなりません。あなたもぜひ、上野で繰り広げられるワーグナーの世界を体感しに来てください!