音程維持と肺機能向上の秘密

パラドキシカルモーションという言葉をご存知でしょうか?一般の呼吸では、息を吸うと助骨が広がり、息を吐くと助骨が戻り、これを同期運動といいますが、歌唱の技術として、非同期運動を活用しています。これが出来ると、音程や美しい声、音量を維持する事が容易になります。

町の音楽屋さんの指導では、この技術を、まずみなさんに意識してもらう分かりやすい指導を行なっています。

分かりやすすぎて、忘れてしまう方も多そうですが🤣

助骨(肋骨)と腹部の非同期運動(paradoxical motion)は、呼吸時に肋骨(胸郭)と腹部が通常とは異なるタイミングや方向で動く現象を指します。声楽家、特にクラシック歌手においてこの動きが観察されることがあり、発声時の呼吸制御に関連しています。以下に詳しく説明します。

1. 通常の呼吸運動

  • 吸気時: 横隔膜が下がり、肋骨が外側・上方に広がることで胸腔が拡張し、肺に空気が入ります。このとき、腹部も軽く膨らむ(腹式呼吸の場合)。
  • 呼気時: 横隔膜が上がり、肋骨が内側・下方に収縮し、腹部がへこむことで空気が吐き出されます。
    通常、肋骨と腹部の動きは同期しており、吸気・呼気で協調して動きます。

2. 非同期運動(パラドキシカルモーション)の定義

  • 非同期運動とは、肋骨と腹部の動きが一致せず、逆方向または異なるタイミングで動く状態を指します。声楽家では、歌唱時に意図的にこの非同期運動を活用することで、呼吸や発声の効率を高めています。
  • : 声楽家が長時間のフレーズを歌う際、肋骨を広げたまま(胸郭を拡張した状態)で腹部を収縮させることで、呼気圧を細かく調整する。このとき、肋骨はまだ吸気状態を維持し、腹部は呼気方向に動くため「非同期」となります。

3. 声楽家における非同期運動の特徴

  • 研究の背景: クラシック歌手の呼吸パターンを調べた研究(例:7人の歌手と4人の非訓練者の比較)では、声楽家が歌唱時に肋骨と腹部の動きを分離させ、非同期運動を積極的に利用していることが示されました。
  • メカニズム:
  • 肋骨の役割: 肋骨(胸郭)は吸気時に広がり、歌唱中もこの拡張を維持することで肺に十分な空気を保持。
  • 腹部の役割: 腹部筋(腹直筋、腹斜筋、腹横筋など)を収縮させ、横隔膜を押し上げることで呼気をコントロール。声楽家は腹部を段階的に収縮させ、細かい呼気量の調整を行います。
  • 非同期の効果: 肋骨を広げたまま腹部を収縮させることで、サブグロッタル圧(声門下圧)を安定させ、長いフレーズや高音を維持可能に。この動きにより、肺活量を最大限に活用しつつ、発声の安定性が向上します。
  • : クラシック歌手がアリアを歌う際、肋骨は開いたまま(吸気状態を保持)で、腹部を徐々に締めることで空気をゆっくり吐き出し、音の持続性を保ちます。

4. 非同期運動の利点

  • 効率的な呼気制御: 非同期運動により、声楽家は呼気を細かく調整し、歌唱中の音量やピッチの変化をコントロールできます。
  • 肺活量の最適化: 肋骨を拡張したままにすることで、肺に多くの空気を保持し、長時間のフレーズや強弱の表現が可能に。
  • 呼吸筋の強化: 腹部筋と肋間筋の独立した動きを訓練することで、呼吸筋力が向上し、発声の安定性が増します。

5. 一般人と声楽家の違い

  • 一般人: 呼吸は主に横隔膜と肋骨の協調運動に依存し、非同期運動はほとんど見られません。日常会話では、細かい呼気制御は不要なため、肋骨と腹部はほぼ同期して動きます。
  • 声楽家: 訓練により、肋骨と腹部の動きを意図的に分離させ、非同期運動を活用。研究では、声楽家の腹部筋の寄与率が一般人より高く、特に呼気フェーズでの制御が優れていることが示されています。

6. 実際の観察例

  • 測定方法: 非同期運動は、呼吸運動を追跡するデバイス(例:マグネトメーターや呼吸帯)で肋骨と腹部の動きを記録することで観察されます。声楽家では、歌唱時に肋骨の拡張が持続し、腹部の収縮が先行するパターンが確認されます。
  • 具体例: 研究で、クラシック歌手がフレーズを歌う際、肋骨の動きは吸気時の位置を維持しつつ、腹部が10〜20%収縮する非同期パターンが記録されました。これに対し、非訓練者は肋骨と腹部がほぼ同時に動く傾向。

7. 日本

  • 日本の声楽家や合唱団員は、腹式呼吸を重視する指導が一般的で、非同期運動を無意識に活用している場合があります。例えば、「腹を締めて声を出す」指導は、肋骨を広げたまま腹部を収縮させる非同期運動を促します。
  • Xの投稿では、声楽家の呼吸訓練として「ストロー発声」や「ゆっくり吐く練習」が推奨されており、これが非同期運動の強化に繋がるとされています。

8. まとめ

助骨と腹部の非同期運動は、声楽家が歌唱時に肋骨(胸郭)と腹部の動きを分離させ、呼気を細かく制御するテクニックです。この動きにより、肺活量を効率的に使い、長時間のフレーズや安定した発声を実現します。一般人ではほとんど見られないこの現象は、声楽家の呼吸筋トレーニングや腹式呼吸の結果として現れ、研究でもその有効性が示されています。

Follow me!